わかち先生の 行こうぜ!商業

高校商業教員のわかちが、教育観などを徒然なるままに書いていきます。

期待値志向と効用志向

わかちです!

多忙によりなかなかブログを書く余裕がなく、久しぶりの更新となりました。

 

さて、私は昨年の12月に結婚したのですが、独身時代と一番大きく変わったと思うのは、保険(生命保険や医療保険)に加入したことです。

独身の時には保険に対して全く興味がないどころか、むしろ「加入しないほうが良いもの」という考え方を持っていました。

それは、私が期待値志向でものを考える癖があったからだと思います。

 

生命保険や医療保険などの保険は、一般的に

加入者が支払う保険料の総額 > 加入者が受け取る保険金の期待値(保険金額×受け取る事象の起こる確率)

に設定されているはずです。

(保険会社が受け取る保険料の総額よりも、支払う保険金の総額のほうが多いようでは、たちまち保険会社は倒産してしまいます。もちろん、預かった保険料を運用して収益を出しているでしょうから単純には言い切れないところもありますが、基本的な原理としてはそのはずです。)

期待値志向で考えた場合、保険は加入するほうが損をする確率が高いと言えます。

私はこのことを根拠に、生命保険・医療保険等の保険に加入をしていませんでした。

 

ところが、妻の家族は若くして男手を失っている経験があり、「保険に加入していない男とは結婚させられない」というスタンスでした。

妻自身も当時、積み立て部分もある保険を含め、(私から見れば)高額な保険料を支払っていました。

私は、「保険は期待値で考えれば間違いなく不利だ」「積み立てと組み合わせた保険は、ノンキャンセラブル*1であり、貴重な現預金をわざわざ流動性の低いものに突っ込むのはやめたほうが良い」と主張し、妻(とその家族)と真っ向から対立したのです。

保険に対する考え方の違いから、結婚が危ぶまれる状態になるという、一見滑稽なようで、実はリアルかつシビアなピンチに陥ったのです。

 

保険に対してどう考えるべきか・・・悩んでいたところに、大学時代に受講していた「商業科教育法」という講義の中で、先生が言った言葉を思い出しました。

その先生の知り合いで、「保険金額100万円の地震保険に加入していて、東日本大震災により家を失い、実際に保険金100万円を受け取った人」がおり、このように話していました。

「たかだか100万円の保険金のために、わざわざ保険料を支払って地震保険に加入するのは馬鹿らしいと思うでしょ?でも、普段であれば何とも思わない100万円でも、震災が起こって家も何もかも失ったときに得られる100万円は、何にも代え難い、本当に有難いと思ったらしいよ」

 

私はこの話を思い出した時、商業科目の「ビジネス経済」で学ぶ、限界効用逓減の法則と同じだと考えました。

「限界効用」とは、財を1単位分追加で得られたときに感じる幸せ度合いのようなものです。

そしてその限界効用は、すでに得ている財の量が多くなるにしたがって、下がっていきます。

よくある例として、「ビールは1杯目が一番美味しく、2杯目、3杯目と進むにしたがってだんだんと美味しさが感じられなくなる」という説明があります。

 

つまり、この話を保険に置き換えると、同じ100万円という金額であっても、家や貯金などの資産がしっかりある普段の状態で受け取るのと、震災により家も家財も何もかも失った状態で受け取るのとでは、価値(限界効用)が異なる、ということです。普段なら100万円の価値である保険金が、追い込まれた状態では1,000万円やそれ以上の価値に感じられることもあるかもしれません。

期待値を用いて考えれば、保険金100万円は受取人がどのような状態であっても100万円だと計算するので、保険加入は損である確率が高いと言えますが、(限界)効用という概念を用いて考えれば、保険加入が必ずしも損な選択であるとは言えないという結論になります。

 

保険に対する考え方の違いで悩んでいた私ですが、「期待値志向の考え方」と「効用志向の考え方」に整理することができ、心の中のもやもやが解消された気がしました。

こうして私は、生命保険や医療保険への加入に一定の理解を示し、無事に結婚することができたのでした(?)

 

余談になりますが、「宝くじ」の購入にも同じようなことが言えると思います。

以前は、「宝くじなんて期待値で考えれば明らかに損(還元率が50%以下といわれている)なのに、なんであんなにみんなこぞって買うんだろう?」と思っていました。

ところが、宝くじを購入するのにかかるコスト(数千円~? そんなに痛手ではない)と、当選した時に得られる金額(数億円? すぐさま仕事辞められる!笑)の間の費用と効用のバランスが絶妙で、単純に金額×確率で計算する期待値で考えてもあまり意味がないと思えるようになってきました。

 

また、私は麻雀が趣味で、期待値計算を戦術の基礎とした研究・書籍を多く読んできましたが、期待値に準拠する選択が直観と反する箇所が何か所かありました。

(限界)効用を計算に使用する研究・書籍は今のところ見たことはありませんが、1,000点のアガリが32,000点のアガリに匹敵する状況も確実にあるわけで、期待値だけでなく(限界)効用も考慮に入れて計算するとより正確な研究になるのではないかな、と考えたりもしています。

 

期待値志向から効用志向へ。この考え方の転換が、私を一歩成長させてくれたのではないかと感じています。

*1:満期前に解約しようとすると、解約返戻金が元本よりはるかに低くなるため、実質解約不可能