わかち先生の 行こうぜ!商業

高校商業教員のわかちが、教育観などを徒然なるままに書いていきます。

学校法人会計に「保守主義の原則」はない

わかちです!

学校法人と企業会計では、様々な相違点があります。

今回のテーマは、「保守主義の原則」についてです。

 

さて、保守主義の原則」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?

 

私は今、商業科の教員をしていますが、実は、大学生の頃の教育実習は「公民」で実施しました。

会計や経済のことが好きになったのは高校生になってからで、もともとは政治や社会のことが好きだったりします。今でも一番好きな国内のイベントは解散総選挙です。

そのため、高校生の時の会計の授業で「保守主義」という言葉を聞いた時には、「自民党かな?」なんて思ったものです。笑

日本の政治でなにが面白いって、改憲派=保守、護憲派=革新なんですよね。「変えたい」のに「守りたい」。「守りたい」のに「変えたい」と本当にややこしい。

そういえば、「仕訳=しわけ」という単語も、はじめに聞いた時には、「事業仕分け」を連想したのを覚えています。民主党かな?笑

日本の政治についても語りたいことは山ほどあるのでまた後日書くことにします。

 

いろいろと話がそれてしまいましたが、結局何が言いたいかというと…

一般的に「保守」という言葉を使うときって、「革新」の対義語として、大概は政治に関係する場面で使いますよね。

でも、会計の世界における「保守主義」はちょっと違う意味合いで使います。

 

会計上の保守主義の原則」というのは、企業会計原則の中の「一般原則」に書かれている7つの原則*1のうちの一つです。

条文は以下の通りです。

企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。

これは分かりやすくいってしまうと、

収益は遅めに少なめに

費用は早めに多めに

計上しましょう、ということですね。そうすることによって、利益の過大計上を防ぎ、資金の社外流出を防ぐという狙いがあります。

 

株式会社が利益を計上すると、その中から株主への配当金を出します。

利益をたくさん計上すると、その分多くの配当金を出すことになり、資金が社外に流出することになってしまいます。

また、同じく、会社が納める法人税などの税金も、計上した利益(正確に言えば税法上の所得ですが)の金額を基準にして計算します。

利益が多いと払う税金も多くなるので、結果的に社外に資金が流出することになるのです。

そのため、過大な利益を計上して、必要以上に資金が社外に流出しないよう、クギを刺しているのがこの「保守主義の原則」なんですね。

 

ところが、学校法人会計にはこの「保守主義の原則」という考え方は存在しません。

(学校法人会計基準にも一般原則はありますが、「真実性の原則」「複式簿記の原則」「明瞭性の原則」「継続性の原則」の4つだけで、「保守主義の原則」はありません。)

なぜだか考えたことはありますか?

 

それは、学校法人は一般の株式会社ほど、利益の過大計上による資金流出の危険性が高くないためです。

学校法人には「株主」は存在しません。株主が存在しないということは、配当を出す必要もありません。

加えて、学校法人は、「本業(授業料収入など)」で得た「利益(収支差額と言ったりします)」は、法人税の納付が免除されているのです。すなわち、利益がたくさん出ても、それにかかる税金はほとんどないのです。

(実際には、「本業」以外の儲けも結構あったりするので、法人税を全く納付しない学校法人はほとんどありませんが)

以上の理由から、学校法人には「保守主義の原則」という考え方は必要にならないのです。

 

応用編として、さらに踏み込んだ話をします。

学校法人には保守主義の原則はありませんから、それに則った会計処理も認められていません。

一番わかりやすい例は、減価償却費の計算方法です。

保守主義の原則の趣旨に照らせば、費用を毎期一定で計上する定額法よりも、「早めに多めに」計上できる定率法が好まれるはずです。

簿記の検定試験でも、備品系は減価償却費を定率法で計算させる問題が多いと思います(実際の企業ではどうなんでしょうか?定率法と定額法の採用率を調べてみると面白いかもしれません)。

しかし、学校法人会計では保守主義の原則がないため、有形固定資産はすべて定額法で減価償却をします。

定率法を実務で適用しようとしたら鬼のように煩雑ですしね。

前職では決算期に減価償却の担当をやっていました*2が、あの大量の固定資産の減価償却を定率法でやれと言われても、絶対にやりたくありません。笑

 

いかがだったでしょうか?

保守主義の原則を切り口として、株式会社(企業会計)と学校法人(会計)の違いを見ていきました。なかなかおもしろいですよね?

一般原則の中でも生徒にとってはややとっつきにくいのが保守主義の原則ですが、興味関心をひけるように、工夫を凝らして生徒に伝えていきたいですね。

次回以降でもまた、企業と学校法人の違い、学習簿記と経理実務の違いについて書いていこうと思います!

 

*1:保守主義の原則のほかに、「真実性の原則」「正規の簿記の原則」「資本取引・損益取引区分の原則 」「明瞭性の原則」「継続性の原則」「単一性の原則」がある

*2:決算日は3月31日ですが、実際の決算の処理は翌年度の4~5月におこなっていました。決算期は毎日のように10時頃まで残業です。心理的なプレッシャーを経理部全員が抱えながらの処理でした…